【作品】西郷隆盛の言葉『幾歴辛酸志始堅』

依頼をいただき制作した西郷隆盛の言葉「幾歴辛酸志始堅(幾たびか辛酸をへて志はじめて堅し)」。

 

 

制作にあたって依頼された作品のテーマは「勢い」と、「熱」。速い運筆と、鉄の色を想起させるような大島紬による表具で表現しました。

この言葉は西郷隆盛の自作の漢詩の一部です。
「児孫のために美田を買わず」のフレーズも有名ですね(投稿の最後に詩全文と訳を記載しました)。

先輩からお薦めいただいた「代表的日本人(内村鑑三)」の本も大変興味深かった。本が書かれたのは1908年。西南戦争で西郷隆盛が没してから30年ほどあとの時代。本の中で内村鑑三は西郷について「歴史が正しい評価を下すまでに、まだ至っていません」と書いている。

そのときから100年以上を経たいま、歴史は西郷隆盛をどう評価しているだろうと思いを巡らせます。そして、変化が激しいと言われる昨今ですが、この時代は歴史の中でどう評価されるのかと、そんな視点も持たせてくれる一冊でした。

また、作品の表具には大島紬を使用しています。大島紬は、西郷隆盛が流された場所でもある奄美大島産の紬。独特の「泥染め」が黒褐色・光沢を生む最高級の絹織物。

西郷隆盛は約3年間奄美大島で過ごしますが、流罪で滞在していたこの期間は西郷にとっては「辛酸」をなめる期間だったのかもしれません。

今回お世話になった表具師さんの技術にも驚きました。反物の幅は作品よりも小さいため生地を継ぎながら表具していくのですが、生地の模様をうまく合わせていただき、まったく継ぎ目が分からない仕上がりです。

 

「偶成」(西郷隆盛)
幾歴辛酸志始堅(いくたびかしんさんをへて こころざしはじめてかたし)
丈夫玉砕恥甎全(じょうふはぎょくさいすとも せんぜんをはず)
一家遺事人知否(いっかのいじ ひとしるやいなや)
不為兒孫買美田(じそんのために びでんをかわず)

(訳)

何度もつらく苦しいことを経験してこそ、志ははじめて強固なものになる
一人前の男たるもの、玉が砕けるように立派な最後であれば死はいとわず、
むしろ、瓦のようにつまらない人生を長く生きることは恥じるものである。
わが家の遺訓を人々は知っているだろうか、ひとつお教えしよう。
子孫のためには、肥沃な田畑を買って残すようなことはするな、というものだ

 

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