藤原佐理/詩懐紙(臨書と原文・意訳)

詩懐紙(藤原佐理)

 

「三蹟」と称えられる平安時代の書の名人のひとり、藤原佐理、26歳の書。

その流動する筆線は、同じく三蹟に数えられる小野道風の書よりも変化に富み、藤原行成の書より闊達に筆が動いている。流麗で躍動感のある筆跡は「佐跡」とも呼ばれます。

佐理の書で最も古い「詩懐紙」には、『和様の書』独特のS字の筆線や、表情豊かな線質など、それまでの唐様の書とは趣のちがう表現がされています。また、この佐理の詩懐紙は現存する最古の詩懐紙といわれています。

 

躍動感あふれる書もさることながら、詩に詠まれた情景も美しい。

 

藤原佐理「詩懐紙」

花脣不語偸思得
隔水紅桜光暗親
両岸芳菲浮浪上
流鶯尽日報残春

 

【意訳】
花は語らずとも感じている、
水に隔てられた桜木は、光に輝きながらそっと愛情を寄せ合う。
両岸の花の香が水面を漂い、
鶯が春の名残を告げている。

ここで桜木に例えられているのは、身分を隔てらながらも恋しあう誰ぞやか。桜咲く季節の美しい光景に、せつない恋を想像させてくれます。

 

*懐紙:詠歌を一定の書式に則って清書したもの。和歌を書いたものを和歌懐紙と呼び、漢詩を書いたものは詩懐紙と呼ぶ。
参照⇒懐紙・書道の場合
* 花脣:花びら、花弁
*芳菲 ホウヒ : 草花のよいにおいがすること。また、草花が美しく咲きにおっていること。
参照⇒デジタル大辞泉『芳菲』

詩懐紙
藤原佐理筆
969年(安和2年)
国宝(1952年11月22日指定)
紙本墨書
32.0×45.0㎝
香川県立ミュージアム蔵