完璧な作品ではないけれど、この状況でできる最良の制作として。

外出自粛が求められる昨今ですが、家で過ごす時間が長くなるとしかしながら当然、書きあがる作品は増える一方です。

せっかくの時間を使って、最近書いた自分の作品を部屋に飾ってみようということで、その内容をまとめてみました。

表具屋さんに足を運んで打ち合わせをしたり新宿の世界堂へ額を選びに行ったりという行動は控えて、なるべくカジュアルに、いま自分にできる行動の範囲で「書く⇒飾る」の制作を心掛けました。

 

どんな作品を飾るか

 

飾る作品として今回選んだのはこの2つの言葉。

春から夏にかけての、自然の生命力あふれる雰囲気の言葉です。

1.「壽山樹色佳氣籠」

 

生垣や山々の、冬には枯れ木だった樹々が、少しずつ、少しずつ葉を出し色を変え、もう少しで青葉になる季節。夏が近づいてきました。外出する機会が少なくなってから、これまで見過ごしてきた景色に何かと目が向くようになったかもしれません。

めでたい山には佳い気に満ちた木々がある、の意味。

 

2.「満架薔薇一院香」

 

初夏を思わせる爽やかな陽気が続いています。街かどでは、家々の花壇にきれいに手入れされた薔薇の花が香る季節。夏の漢詩の一節から「満架薔薇一院香」。

棚いっぱいのバラの香が屋敷いっぱいに香っている、の意味。

 

2つともここ数日で書いた作品で、比較的読みやすいスタイルと、おそらく説明がなければ読めないスタイルの2パターンですが、どちらも同じ言葉を書いた作品です。

今回はこの「読める作品」と「読めない作品」をそれぞれペアとして同じ額に入れてみようと思います。

 

書いた作品が飾られるまで

 

今回の制作では書いた作品そのものを飾るというのではなく、実は、画像をプリントアウトしたものを額に入れるのですが、一般的な書の作品を飾れるような状態にするには「表具」という工程が必要です。

というのも、書き上げた作品は、おそらく書道の授業を経験したことがある方は想像しやすいと思うのですが、和紙に書かれたものは墨が乾くとシワシワの状態になるので、そのまますぐに飾れるわけではありません。

和紙のシワをきれいに伸ばしたり、掛け軸や額に仕立てる場合は布地や木枠を準備したりと、いくつかの工程を経ていよいよ壁に掛けられる状態になります。この仕立て作業を総じて「表具」といって、表具師さんが仕上げてくださいます。

こちらの画像のように↓

(過去の作品の表具の様子です)

 

きちんとした掛け軸や額、屏風の作品として仕上げる表具には、2週間から1か月ほど時間がかかります。

表具について書き始めるとそれだけでもいくつも記事が書けるような内容なので、このブログではこのくらいに。

 

今回の制作では時節柄、なるべく人と会わずに、書いたものをすぐに、自分のできる範囲で飾れるものをつくるということで、書き上げた作品そのものではなく、作品をきれいに撮影してプリントアウトしたものを額に入れるという内容で作業を進めました。

 

便利なコンビニプリントと、カジュアルな額を使って

 

今回の作品は手の込んだ表具でなく、なるべくシンプルな方法で飾れるようにということで、書き上げた作品をスマホで撮影、PCで背景処理など編集し、最寄りのコンビニでプリントアウト。

ファミリーマートとローソンではPDFファイルをA4サイズの光沢紙にプリントが可能です(導入している複合機の都合でセブンはLサイズのみ)。高級感を感じるほどではありませんが、普通紙に比べれば格段に質が上がります。

 

額はIKEAのフレームを使用しました。

説明にも「子ども部屋での使用に適しています」と書かれているとおり、フロントパネルはプラスチック製、背面は段ボールだったりときわめてカジュアルなフレームです。丈夫さにはやや不安を感じますが、サイズが豊富に用意されていてDIY的に飾る分には十分だと思います。

IKEA FISKBO フィスクボー

https://www.ikea.com/jp/ja/p/fiskbo-frame-black-10297430/

 

今回の作品では40×50cmの大きさの、白と黒のフレームを選びました。

 

そして出来上がった作品がこちら。

 

 

「スマホで撮影+コンビニプリント+安い額」というかなり即席の作品ですが、GWに手軽に作って飾る作品としては、これはこれでよいのではないでしょうか。

 

完璧な作品ではないけれど、この状況でできる最良の制作として

今回の作品は、十分な表装とはもちろん言えませんが、いまこの状況でできる&やりたいことを具現化したベストに近い作品ではないかと思っています。

そして、限られた時間・素材の範囲で自分一人で作品を仕上げるのは、「書く⇒飾る」までの全体感をつかむのに良い体験になると再認識できたことも大きな気づきの一つです。

普段の制作でお世話になっている表具師さんやカメラマンさんの視点を追体験しながら、自分では到底再現できない技の凄さを感じました。

時間や素材、人とのコミュニケーションなど、今回の制作ではたくさんの制限がありましたが、その制限によって「次はもっとこうしたい」が生まれました。

 

小杉 卓

 

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