90歳の背中を見る機会は、人生の中でどれくらいあるだろう。

90歳の背中を見る機会は、人生の中でどれくらいあるだろう。

 

 

パリ管弦楽団×ブロムシュテット指揮のコンサートを2夜連続で聴きに行った。

@フィルハーモニー・ド・パリ
モーツァルト交響曲第39番
ブルックナー交響曲第3番

 

 

この2日間のプログラムは、休憩をはさんで2時間を超える。齢90となるブロムシュテット氏はしかし、指揮台の手すりに一度も寄りかかることなく(一曲目のモーツァルトでは指揮台すらなかった)、凛とした動作で音楽を導いていく。その一連の指揮には神々しささえ感じられた。

モーツァルトの39番は、後期の3大交響曲の一つではあるがなかなか生の演奏を聴く機会は多くない。ブルックナーを聴く機会はそれ以上に少ないかもしれない。そんな「渋い」プログラムではあるが、2日間ともホールは満席だった。

 

実を言うと、僕はモーツァルトを演奏するのも聴くのも苦手というか、なんというか「とっつきにくさ」のようなものを感じていた。好き嫌いの問題なのかもしれないが、やはり触れる機会の少ない音楽というのはとらえどころのない、漠然としたイメージしか持てないものだ。

 

ブロムシュテット氏のモーツァルトを聴いたときに率直に感じたのは、「ああ、モーツァルトってこうやって弾くんだ」ということだった。編成の小さなオーケストラの、一つひとつの音がはっきりと聴こえる。音量のバランスやタイミング、曲の構成がシンプルであるだけにその難しさはよくわかる。絶妙なバランスで仕上げられたモーツァルトは、本当にきれいだった。

そして、ブルックナー。ブロムシュテット氏のシンプルな指揮から、いかにしてこんなにダイナミックな演奏が生まれるのかと、驚きと共にパリ管の表現力の深さに感動した。

 

 

演奏後の拍手は、奏者へはもちろんのことながら、指揮者へのそれは大変な喝采だった。スタンディングオベーションを送る観客も、今までのコンサートの中では一番多かったのではないかと感じた。

ニコニコと舞台を去っていくブロムシュテット氏とパリ管の団員の目配せが、その音楽を作り上げたもの同士を称え合うようで、そこに確かな信頼をみたように思う。

90歳の背中が、かっこよかった。