3度目の正直。パリ管弦楽団の渾身の演奏会にめぐりあった話。

パリに来て6週間。
幸せなことにパリ管弦楽団の演奏会は昨夜で3回目だ。

パリ管弦楽団、演奏技術は見事というほかないのだけど、面白いことに3回の演奏会がまるで違うオーケストラが演奏しているんじゃないかというくらいに「違い」がはっきりしている演奏会だった。3回の演奏会すべてで違ったピアノ協奏曲が演奏され、ソリストも指揮者もすべて違う人だった。

 

1回目、オール『フランス』プログラム

ラヴェルのピアノ協奏曲を軸に、すべてフランスの作曲家の曲で構成されていたプログラム。聴きに行った3回のプログラムの中ではある意味もっともパリ管弦楽団らしいプログラムだ。

演奏者個々人の音色やフレージングは素晴らしく色鮮やかではっきりしてはいるものの、しかし、演奏会の出来としては正直いまいちだったと言わざるを得ない。

ピアニストとオケの音色が違いすぎた。指揮者は明らかに途中から「くそお~」という感じの顔だったし、客席も今一つ盛り上がらない。拍手をしない人も結構目立った。

豊かな音色には感動したものの、期待値が高かった分だけ少し期待外れの演奏会に終わった。

 

2回目、シューマンのピアノ協奏曲とメンデルスゾーンの交響曲第4番『イタリア』

かなり盛り上がった演奏会だった。

指揮者の動作がかなりはっきりキビキビしていて、魅せた。ピアノの音色も、若いピアニストらしいみずみずしい音色で、オケとよくマッチしていた。

指揮者があまりにも派手に棒を振っていて、楽章の終わり方も派手だからか、どうにも勘違いするお客さんが多かったようだ。楽章間での拍手が多かった。というか、ピアノ協奏曲、交響曲、すべての楽章間で拍手があった。パリの演奏会でもそんなこともあるのかとびっくりした。

とても楽しい演奏会だった。

 

3回目、ブラームスのピアノ協奏曲第2番とチャイコフスキーの白鳥湖

圧巻の演奏。

プログラムとしてはかなりアツい曲を揃えていて、華やかフワフワのイメージが強いパリ管がどんな演奏をするのかと予想できなかった。それがもう見事にやられた。

奏者が入場してくるときの雰囲気がこれまでとはまず違った。なんだかみんなワクワクしているように見える。

ブラームスの冒頭、ホルンの旋律をすくい上げるように導入されるピアノ。一瞬で観客の空気が変わった。

ブラームスのピアノ協奏曲は、ラフマニノフのピアノ協奏曲とともにもっとも難しいといわれるピアノ協奏曲のひとつ。官能的なメロディーを歌い上げるだけでなく、バッハを思わせるような古典的な音作りが随所に感じられ、ピアニストの技術の高さを物語っていた。

ブラームスのピアノ協奏曲は1番も2番も、もともとかなり好きな曲だ。とくに2番の第2楽章の中間部、一気に曲が転調するフレーズがとても好きなのだが、この演奏ではもう、全身に鳥肌がブウワァァァ、、、!!!ってなった。

3楽章のチェロのソロも美しく、ホールが良く鳴っていた。4楽章はピアノとオケの掛け合いが波のように押し寄せてきた。泡粒のように細かいフレーズから、潮流のように流れる音の圧力、そのダイナミズムは海のように大きな自然を思わせるほどだった。

圧巻のパフォーマンスに、観客からも惜しみない拍手が送られた。

アンコールのピアノ独奏も素晴らしかった。恥ずかしながら知らない曲だったのだが、ソリストが「~を演奏するよ」的なことを言っていた(聞き取れなかった)ので、曲探しをするのがこれからの楽しみだ。

チャイコフスキーの白鳥湖は、なんといってもその音量。93人(筆者の目測)もの奏者が奏でるチャイコフスキー、楽器が鳴ってる鳴ってる。豊かでいて、それですごい音圧でもって観客を圧倒してくる。

最後まで集中が途切れることなく、指揮者のディレクションも堅実に進められた。

見事な演奏に、スタンディングオベーションの観客の姿も目立った。

なかなか巡り合うことができないくらいのレベルの、素晴らしい演奏会だった。

 

 

オーケストラ文化の在り方や観客の雰囲気については改めてまとめたい。

取り急ぎ、昨夜の感動を。

 

現場からは以上です。