書道部の先輩が「できません」と答えたときに、先生が静かに言ったこと。

高校時代の書道部での話。

高校2年の夏休みだった。
書道部の部展は毎年お盆の時期に開催されていて、そのときは展示作品の制作・裏打ち・表具作業で毎日書道教室にいた。クーラーがなくて、窓を全開にしても涼しくなる気配はまったくない書道教室。毛氈(絨毯みたいに大きな書道用下敷き)を教室一面に敷いた空間には墨の香りが充満していて、今でも墨の香りで思い出す光景のひとつ。

さて、そんな書道教室での裏打ち作業中

先生「じゃあA(書道部の先輩)、この作業お願いね」

A先輩「いや~俺できないっす」

というやり取りがあった。学校とかではよくある風景かもしれませんね。この会話を聞いていた僕も、ここまでは特別なにかを思うことはなかった。でも、「できない」といったA先輩にそのとき先生が指摘した話を、僕は今でも大切にしている。

決して怒るわけでもなく、先生は静かな口調でこう言った。
「できない、ってことはないんだよ。うまくできないことはあってもさ。」

これ、その通りだなあと考えてしまった。

だいたいのことって物理的に不可能なこと以外は、「やる」ことはできる。それがうまくできるか、うまくできないかの違いがあるだけだ。というわけで、A先輩は「うまくは」できないその作業にとりかかっていきました。

でもこのA先輩だけじゃなくて、「うまくできない」こともすべて「(何も)できない」と言ってしまっている人も多いように思う。それはきっとちがう。

それは「できない」んじゃなくて「やらない」だけだ。