書くことは、聴くこと──「空と海」をめぐる静かな対話

先日、日本ファシリテーター協会の分科会として、書のワークショップを実施する機会をいただきました。
タイトルは「書くことは、聴くこと」。参加者は、普段から人の言葉に耳を傾け、場の空気を紡ぎ出すことを仕事にしているファシリテーターの方々。
参加者の皆さんは、ファシリテーターとして言葉の扱いに長けている方ばかりということで、今回は、あえてその言葉の輪郭をぼかしてみたかった。頭の中で整えられた文章を「書く」のではなく、自分のなかに眠っている言葉を、身体を通じて「聴く」ようにして表現してみる。そんな時間になったと思います。

テーマは「空と海」。
曖昧で、ひろがりがあって、ちょっとつかみどころがない。だからこそ、それぞれの内側から引き出される言葉には、思いがけない深さや遠さが宿るのではないかと、そう思ったのです。
書道というと、どうしても整った美しい文字をイメージしがちですが、今回は少し違いました。墨の濃さ、筆の速さ、にじみや掠れ。それぞれの動きが、まるで感情の温度をそのまま紙に転写しているかのようで、どの作品にも、そこに至るまでの思索と感受がまっすぐに表れていました。

書道というものが「言葉を美しく整える手段」ではなく、「言葉が生まれる瞬間を支えるプロセス」であるということを、あらためて実感しました。
私たちは日常の中で「言葉を使う」ことにとても慣れてしまっています。でもその手前には、「言葉が立ち上がる」瞬間がある。感情が、記憶が、呼吸の波が、すこしずつ言葉のかたちをなしていく時間。それを、筆と墨がそっと手伝ってくれる。

今後は、さらに「言葉が生まれるプロセス」に焦点をあてたワークも取り入れていけたらと思っています。詩や古典に触れることはもちろん、個人の体験や、ふとした感情の断片から言葉をすくい取っていくような導入があってもいい。
書という営みの可能性を、もう少し先へと伸ばしてみたいと思います。
小杉 卓