ヨーロッパに来て毎回感動するのは教会の荘厳な空気です。
ヨーロッパの教会を初めて訪れたのは大学1年生のときで、ドイツのケルン大聖堂に立ち寄ったときでした。天井の高さや石材の重厚感、その規模はもちろん、ステンドグラスや細部の彫刻に度肝を抜かれました。
「幼少期にこんなところに毎週連れてこられたら、そりゃあキリスト教信じるよなあ」なんて考えたことを思い出します。
さて、フランスにももちろん素晴らしく美しい教会があります。
何より有名なのはパリのノートルダム大聖堂でしょう。もちろん美しい。でも、フランスに来て僕が一番感動した教会は別の街にありました。
パリから電車で1時間ほどのところにシャルトルという町があります。
その街の中心にあるのがシャルトル大聖堂(フランス語名:Cathédrale Notre-Dame de Chartres)です。世界遺産にも登録されているこの大聖堂のステンドグラスが本当に美しく、「ステンドグラスの極地」と評価されています。特に青いガラスが多用されていて、「シャルトルの青」ともいうそうです。
ここ数日はこれをモチーフにした作品を制作していました。その作品の制作過程をご紹介します。
まずはテーマになる言葉選びから。
ちょうど「レ・ミゼラブル」を観ていて、やはり心に残るのは「Do you hear the people sing?」ですね。邦題は「民衆の歌」ですが、個人的にはもっともっとずしんと、「心の地鳴り」のようなものではないかなあと思っています。街全体、生命をかけた響きのような。教会の中では、パイプオルガンの神秘的な音色が印象的です。そこで、今回は「響」という言葉をテーマにすることにしました。
そして、その「響」をまずは書き上げなければいけません。これが一番重要な部分ですね。
最終的にはステンドグラス調の作品に仕上げるため、細かい点画のきれいさよりも、文字全体にエネルギーがみなぎるようなシルエットを心がけました。
この書をもとに、型をつくっていきます。
和紙をもう一枚重ねて、小筆で輪郭を切り取り、ステンドグラスを模した紋様に取り掛かります。
ステンドグラスでは通常、聖書のワンシーンがテーマになっていることが多いのですが、今回は和紋で攻めることにしました。その成長の早さから縁起が良いとされる「麻の葉紋様」。今回はより複雑にするため、「変わり麻の葉」紋様にします。
型をとった和紙に「変わり麻の葉」を透かして紋様を描いていきます。
タブレット大活躍!
こんな感じに描き上げました。
うん。これはこれでなかなかいい感じですね。
さて、ここからいよいよ彩色です。
パソコンにデータを取り込んでから編集で色を付けるのは難しいことではないのですが、今回は彩色まですべて手書きにこだわりました。手書きでできる「色むら」をあえて残したかったからです。
ステンドグラスを間近に観るとよくわかるのですが、ガラスの厚さが微妙に違ったり、ちょっとした日の差し込み具合の違いで全く色合いが変わったりと、一枚のガラスでもいろいろな表情があったからです。
日本画用の顔彩を使って、いろいろな配色を試してみます。
「シャルトルの青」のように青がメインになりつつも、赤や黄色でしっかりアクセントを効かせたい。
ということで、出来上がった色見本をもとに、一色ずつ色を付けていきます。
まだまだ序の口ですね。
複数の色が入ると雰囲気が変わってきます。
「赤」に加えて「朱色」も付けていきます。
だんだん華やかになってきました。
なんだかパッションフルーツみたいです。
いよいよここからは青系の色です。
青一色だけではまだまだ赤黄が強いです。
目がちかちかします。
どんどん色を足していきます。
だいぶ均衡がとれてきました。
仕上げに取り掛かります。
濃い色をさすことでずいぶん落ち着きが出ました。
彩色はこれで完了ですが、このままではステンドグラス調とはいっても、黒い下敷きの上に作品を置いたままでは光の恩恵がありません。
実はこの作品、ステンドグラスのように後ろから光を当てることを想定しています。
そのため、
窓にかざしてみると、
こうなるんです。
和紙や顔彩の色合いは光をよく通します。ガラスのそれとは少し異なりますが、紙一枚の厚さをもってこれだけの煌めきを生み出せるのは素材のなせるわざですね。
さて、紙の余白部分を教会のように暗く(これはPCで編集)して、いよいよ完成です。
「響 ―大聖堂のステンドグラスより―」
「レ・ミゼラブル」の名曲「Do you hear the people sing?」と、教会に響くパイプオルガンから「響」という言葉を。
そして、シャルトル大聖堂をモチーフに、麻の葉紋様をステンドグラス調に彩色しました。
作品の後ろから光を当てることで和紙、顔彩の素材をより楽しめるとともに、教会のステンドグラスに光が差し込む様子を表現しました。