この時期の風物詩といえば、やはり鯉のぼり。
僕が小学生の頃は、それは立派なこいのぼりを毎朝おじいちゃんが上げてくれました。
鯉が立身出世の象徴であるゆえんは、中国の歴史書である「後漢書」によるとされます。
黄河の急流として有名だった「竜門」という滝を魚たちが登ろうとしたところ鯉だけが登りきり龍になった、という伝説が立身出世の例えとして記されているそう。コンクールや試験などの難関を「登竜門」ともいいますね。
鯉のぼりの文化が日本で広がったのは江戸時代のことだそうです。5月5日、端午の節句に合わせ、男児の出世と健康を祈願して庭先に鯉の幟旗を飾る風習が、とくに武家を中心にはじめられたそうです。
江戸時代には錦鯉がまだ一般に広まっていなかったことから、当時は真鯉(黒い鯉)だけでした。緋鯉や色とりどりの鯉が飾られるようになったのは明治時代以降だそう。
(歌川広重「江戸名所百景」より)
歌川広重の浮世絵に描かれている鯉のぼりも、たしかに真鯉だけ。
今回、制作した作品はこちら。
「鯉」の一文字を、急流を上る躍動感をもって書き上げました。
背景には流水を模した油彩と、日本の伝統文様「青海波」を合わせています。
青海波は古代ペルシャにその発祥があるといいます。どこまでも広がる海原になぞらえて、未来永劫続く平和を願う模様です。飛鳥時代に日本に持ち込まれ、模様以外にも雅楽の演目としても有名ですね。源氏物語の中で、若き光源氏と頭中将がこの雅楽の「青海波」を舞うシーンを思い出します。
「海じゃないか!」というツッコミがあるかもしれませんが、縁起がよい水の模様ということで、ご愛敬。
一つの光景の中に歴史や故事を感じさせる、鯉のぼり。
もう子供ではないけれど、いいものですね。