この街の美しさの根底にあるものは、厳しさだと思う。

一昨日の夜、シャンゼリゼ通りで警察官が銃撃され死傷する事件があった。亡くなった警察官のご冥福をお祈りします。

週末の大統領選挙を控え、街のいたるところで演説が行われ、また警備も一層厳しくなっている時期だったこともあり、そのショックは大きい。事件翌日の金曜日は各候補の演説がすべて取りやめられた。

事件直後、僕のもとにも日本の友人から無事を確認する連絡がたくさんあった。ありがたい。

その街並みの美しさから、どうしても華やかなイメージが先行するパリだが、そもそも、パリというのは危ない街だ。決して平和・安全な街とは言い切れない。ひったくりやスリは日常茶飯事だし、大きい駅や公園、ショッピングセンターなどは警察や軍が警備して回っているのをよく見かける。特に軍の人たちは大きな銃を持っているから、はじめて彼らを街中で見たときはギクリとした。

数年前のテロのときは僕は日本にいたから、その様子をメディアを通して見つめていた。「それでも私たちはテロには負けない」と、事件の翌日から日常生活を貫こうとする市民の姿勢が印象的だった。

 

今回の事件の後、人々の生活の中にその姿勢をじかに感じる。セーヌ川沿いをランニングする人、川沿いで談笑する若者、商店街の様子など、街の様子はいたって日常と変わらない。

安全ということを考えたら、東京とは比べることはできないくらいパリは危険だと思う。でもそのリスクがあることを前提に、自分の安全を自分で守るという意識のもとに生活する凛とした姿勢が市民にはある。

市民の権利を自分たちが勝ち取ったという誇りがあるから、きっぱり主張する。古い街並みを残す中では苦労も多く、たとえばアパートにエレベーターがないのは普通だ。僕のアパートの部屋は7階にあって、毎日階段。いい運動。

危険だし不便な面もたくさんあるが、この街には市民の意志と覚悟があると強く感じる。もちろん優しさや親しみやすさがある部分もたくさんあるのだけど、その緊張感や厳しさゆえの美しさが、この街の根底にはあると思う。