「樹」

小学生のころだったか中学生のころだったか、
国語の時間にこんな話に出会った。

ある染物屋さんと評論家(だったと思う)の話。
「綺麗な桜色に染まった着物を見せてもらった。『桜』で染めたというから、
当然私(評論家さん)は、その染物は桜の花から染めたものだと思った。
しかし話を聞いてみるとどうも違うようだ。」

染物屋さん曰く
「この色はね、春に花が開く直前の桜の木の幹からとったものなんですよ。
一年間、エネルギーをいっぱいにため込んで、今まさに開こうとしている、
そのときにしかこの色は出ないんです」とのこと。

漠然としか覚えていないけど、
大体そんな話だったと思う。

その話を読んでから、
僕には、花開く前の桜の木が赤みがかって見えるようになった。
実際に赤く色づいているのか、
僕の頭が勝手なイメージにとらわれているのか、
どちらかは分からないけれど。

ごつごつした黒い幹の奥に、
ツンとつつくと、とめどなく何かが溢れ出るような、
そんなあやうさを感じる。綺麗だなと思う。

そう、この「樹」は桜の木。
今にも花開こうとしている、
そんな樹。